実践

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経営学において理論を提示する際は、必ず、実用性を問われます。我々の仮説は、「経営学は、思考過程と実践過程を分けて考えるべきだというものです。実践することは、思考することの何十倍も難しく、複雑であるため、思考に際して実践上の制約条件を考慮することは思考過程の有効性を損なう結果につながりやすいと思われるからです。

ここでは,仮説として経営思考実践手法を提示させていただきます。経営思考実践手法は,初めに,統制可能な組織と統制不可能な組織を識別する点に特徴があります。

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[ステップ 1]内部組織と外部組織の認識

統制が効く範囲を内部組織,統制が効かない範囲を外部組織としてとらえます。内部組織,外部組織の境は必ずしも公式の組織図とは一致しません。また,境は明確ではなく,徐々に統制が効かなくなっていく考えられます。

統制が効く範囲と統制が効かない範囲では必要となる対応が違ってくるために,はじめに,両者を認識しておきます。

[ステップ 2]内部組織での段取り

統制が効く範囲では以下の段取りが必要となります。

  • 指導者の創出
  • 固定観念の明示化
  • ヴィジョンの共有化
  • モチベーションの明示化
  • 作業の設計
  • 技術の習得

指導者の創出

本人の意欲と技量,さらに,組織内での信望等を考慮して指導者を選出する必要があります。

さらに、一つの組織に指導者は一人であるべきです。

組織内に指導者たる人材がいない場合,組織の成功はほぼ不可能と言えます。また,組織内に複数の指導者をめざす人材がいる場合も,組織内に派閥ができ,組織の潜在能力を出し切ることが難しくなります。

固定観念の明示化及びビジョンの創造

組織にビジョンを創造する際は,これまでの固定観念を明示化して,固定観念から意識的に逃れる努力が必要となります。固定観念だけを考えていても固定観念から抜け出せませんし,ビジョンだけを考えようとしても固定観念から抜け出すことができません。固定観念とビジョンを比較する事によって,初めて両者を認識することができます。

ヴィジョンの共有化

組織内の段取りでもっとも重要なのが,ヴィジョンを共有することです。このためには「対話」が欠かせません。対話は時間と体力を大量に要しますが,避けては通れません。

作業の設計

大まかな仕事の流れはビジョンを共有化していく過程でほぼ明らかになります。しかし,実際に作業を行うにはさらに細かい検討が必要となります。組織内の段取りの一つとして,作業の設計を行う必要があります。

技術の習得

ヴィジョンの達成までに時間的余裕がある場合は,必要となる技術を組織内で修得することが可能です。ヴィジョンの達成が急を要する場合は,外部から技術を移入せざる終えない場合もあります。しかし,組織内で技術を習得していくことで,長期的に組織の戦力を強化できる利点もあります。

[ステップ 3]組織間での調整

組織間での調整には組織内の段取りと全く違う法則が働きます。ヴィジョンや価値観が共有できないからこそ組織間に境があるわけですから,組織間の調整は,うまくいかないことの連続です。たとえ、一つの企業の中であっても,部署が違えば,協力をえられないのが当たり前です。組織間の調整としては,予算,人材等の経営資源の獲得,協力関係の形成,またこれらを獲得するための組織内での影響力の獲得などを行う必要があります。

さらに,組織内の調整がうまくできない場合は,ステップ2にもどって,組織間調整の制約をふまえて,ヴィジョンや作業等を修正する必要が生じます。

[ステップ 4]実施

実施過程においては,

  • 設計した作業の実行
  • できるだけ短い期間での振り返り
  • 軌道修正のための警告

の3つを念頭に置く必要があります。とくに,振り返りに際しては,達成したことを祝福し,作業の継続への精神的エネルギーを充電する必要があります。

さらに,予定を大きくはずれた場合,臨機に警告を出す心構えが必要となります。

以下,経営思考の実践に関して示唆的な学説を提示いたします。

ーターの思考と実践についてのアプローチ 戻る

ポーターの学説にみられる思考過程の体系化モデル

思考と実践の違いに対して、ポーターのアプローチは示唆的です、彼は彼の主著「競争優位の戦略」において始めに3つの明快なコンセプト(業界分析モデル−ファイブ・フォースモデル,基本戦略設定モデル−コスト/差別化/集中マトリックス,業務構造分析モデル−価値連鎖モデル)を提示し、著書の後半で、シナリオアプローチを推薦しています。

はじめの3つのコンセプトの1つ1つは,状況整理に重点を置いたパッシブ(認識型)思考のモデルです。それらに続いて,適用する際には、「シナリオアプローチ(=機械的な変数の組み合わせによる複数シナリオの生成方式)がよい」としているのです。ポーターは,パッシブ思考の3つの整理枠を組み合わせて「体系化」をおこなっているのです。整理枠1つ1つで分析を行ってしまうと原因追究型の思考になってしまいますが,ポーターは1つ1つの整理枠では単に状況を整理するにとどめ,体系的な探索と分析によってプロアクティブ(先読み型)思考を実現しているといえます。

さらに,シナリオアプローチは複雑な実践過程をモデル化する有効な手段と考えられます。ポーター自身は,その後,実践過程の研究は行っておらず,シナリオアプローチの実践への有効性は検証されていません。

ポーターは,プロアクティブ(先読み)思考についても「体系化」に類するコンセプトも示していません。我々の研究はポーターの研究を一歩進めたものとして経営学上意義あるものと思われます。

 

ケプナー・トリゴー 戻る

ケプナー・トリゴー法は管理者の合理的な問題解決と意志決定の方法論を世に問うてきました。これは思考に関する研究です。さらに,合理的思考を実践していくための方法論についても研究が進められています。

ケプナー・トリゴー法の創始者の一人チャールズ・ケプナーは近著で問題解決のプロセスを以下のように示しています。

Task1 状況を明らかにする

Task2 目的を明らかにする

Task3 問題をわかっている人を呼び込む

Task4 問題を正確に描き出す

Task5 原因究明を行う

Task6 解決策の評価尺度を用意する

Task7 解決策候補を選び出す

Task8 実行可能な解決策の実行計画草案を作る

Task9 組織やリスクを考慮して草案を微修正する

Task10 理解と同意を得るように説得を行う

タスク9とタスク10は実践過程を考慮した問題解決のプロセスととらえることができます。

さらに,ケプナー氏は,問題解決を妨げる5つの要因として,

  1. これまでの行動,思考の慣習
  2. 個人主義と競争の習慣
  3. 改革に伴う労苦への嫌悪感
  4. 現状への満足
  5. 失敗することへの恐れ

をあげています。

我々は,ケプナー氏の言う理解と同意のための説得の方法論について今後研究を進めたいと考えています。

ラーニング・オーガニゼーション・モデル 戻る

ピーター・センゲ氏は競争力を維持できる企業のモデルとして,ラーニング・オーガニゼーションのコンセプトを提案しています。センゲ氏はラーニング・オーガニゼーションを実現する経営者の役割を説いています。センゲ氏はラーニング・オーガニゼーションにおける経営者に必要なスキルとして以下の5つをあげています。

  1. システムズ思考ができること
  2. 人間についての洞察ができること
  3. 組織のメンタルモデルを表面化できること
  4. 組織内にヴィジョンを共有化できること
  5. ティームによる学習ができること。

人間性やメンタルモデル,ビジョンといった,論理的な思考では扱えない領域を指摘していることがセンゲ氏の理論の特徴です。さらに,センゲ氏は論理では扱えない領域と論理で扱える領域の接点としてクリエイティブ ・テンションのコンセプトを提示しています。クリエイティブテンションとは現状とヴィジョンの乖離の度合いを指します。従来から,問題を理想と現実の乖離の度合いとして定義する問題解決手法は存在していましたが,センゲ氏は問題解決手法で言う理想に組織的なメンタルモデルや共有化されたヴィジョンを関連づけて,組織における問題解決を提言しています。さらに経営者による統率の役割を重視することで,従来の個別問題解決手法を組織の領域に拡張しているといえます。

さらに,センゲ氏は,細かい点を検討する際の複雑さと,不確実な将来のことを考える際の複雑さの区別を提案しています。

センゲ氏の提言を具体的に検討することは,経営の実践的側面の研究に大いに役立つものと思われます。

モデル 戻る

野中氏の理論は経営の実践面を考える上で多くの示唆を与えてくれます。野中氏のモデルは,「暗黙の知識」と「表現された知識」という知識の2つの様態があり,「新たな知識は,知識が様態間を移り変わる際に生成される」という独自の仮説からなっています。野中氏は,個人及び組織内での知識創造のプロセスをこれまで知られているどの理論よりも具体的にモデル化しています。

野中氏の組織的知識創造のモデルは以下のようになっている。

  1. 暗黙の知識を組織内で共有化する
  2. 暗黙の知識を明示化してコンセプト化する
  3. 組織内においてコンセプトを正当化する
  4. コンセプトを製品/サービスまたはシステムとしてとしてプロトタイプ化する
  5. 成功した組織内の知識創造を組織内の他の部署に伝播する

我々は,野中氏の知識創造モデルをもとに,知識だけでなく経営の実践面全般にわたるコンセプトの構築を進めています

ケイパビリティ理論 戻る

ストーク,シュルマン,エバンスらはケイパビィティーの企業内での実現についてモデルを説いています。彼らのモデルプロセスは以下のようになっています。

  1. 戦略を具体的な目標値に移す
  2. 従業員がケイパビィティ実現のために必要なリソースを十分に利用できる
  3. 実現の過程を一歩一歩明示する
  4. 経営者がリーダーシップをとり続ける

彼らのモデルは,野中氏のモデルを組織内の知識創造から企業経営全般に拡張する際に多くの示唆を含んでいると思われます。