経営思考メタモデル

プロアクティブ思考,リアクティブ思考,パッシブ思考

柴田英寿

英語論文より抄訳

毎年,毎年,新しい経営概念が現れては消えていきます。どの概念を取り入れれば良いのでしょうか? この論文は様々な経営概念を広く一般的に評価するためのモデルを提示しています。この論文はそのモデルを「経営思考メタモデル」名付けています。経営思考メタモデルは,プロアクティブ(先読み)思考,リアクティブ(事態対応型)思考,さらにパッシブ(受け身型)思考の3つの思考パターンより構成さえています。状況に応じて,これらの思考パターンを適切に選択することで効率的な経営思考ができると考えられます。

本論文の意義は,これまで一般的な経営思考の枠組みとしてとらえられてきたプロアクティブ思考やリアクティブ思考を,具体的な戦略立案手法やコンサルティング手法,会計経理手法等に当てはめてを検討した点にあると考えられます。

経営思考メタモデル

本論文の主要な提言:

  1. 経営思考の範囲思考過程は極力,実践過程と分けてとらえるべきである。思考過程で実践を考慮してしまうと,大胆な発想ができなくなってしまうと考えられるからです。
  2. プロアクティブ思考の有効性プロアクティブな思考は,因果関係で物事を考える習慣を打ち破ることができる。プロアクティブな思考は過去の経験が役立たないような状況で有効です。プロアクティブに思考するには,因果関係による分析に代わって機械的な発想法が必要になります。
  3. リアクティブ思考の有効性ほとんどの日常的な経営思考において因果関係分析に基づいたリアクティブ思考がもっとも有効な思考方法である。因果関係に基づいた思考は信頼性が高く,かつ,組織の中で広く同意を得やすいといえます。
  4. パッシブ(受け身型)思考の弱み使用頻度の高い一般的な経営手法は,提案者の意図に反して,単に情報を整理するだけとどまってしまうことが多い。経営コンセプトの適用に際しては,提案者はプロアクティブな思考やリアクティブな思考を意図していても,正しく適応されず,状況を整理しただけで終わってしまうことが多いようです。

 

経営思考メタモデルの概要 

経営思考メタモデルは3つの思考パターンからなり,3つの思考パターンはさらにそれぞれが,「探索過程」,「分析過程」,「意志決定過程」の3つに細分化されています。経営思考メタモデルは,この分割された9つの概念によって,思考パターンを網羅的に把握し,状況に合わせて適切な思考パターンを選択することに役立つことを意図しています。

以下,プロアクティブ(先読み)思考,リアクティブ(事態対応型)思考,パッシブ(受け身型)思考の順にそれぞれの思考の強みと弱み,必要要件,適用例等を提示いたします。

プロアクティブ(先読み)思考

強みと弱み

強み

  • プロアクティブ(先読み)思考は現状を打破するために有効である。
  • プロアクティブ(先読み)思考は選択肢を発想するのに長けている。
  • プロアクティブ(先読み)思考は先の状況が不透明な際に有利である。

弱み

  • プロアクティブ(先読み)思考の結果は,可能性のあるシナリオにすぎず,信頼できるシナリオにはなり得ない。
  • プロアクティブ(先読み)思考は,説得力に欠ける。
  • プロアクティブ(先読み)思考は日常の経営思考には向かない。
  • プロアクティブ(先読み)思考には膨大な時間を要する。

強みを有効に活用する際にも,弱みについての確かな認識がなくてはプロアクティブ(先読み)思考を有意義に使いこなすことはできません。たとえば,プロアクティブ(先読み)思考は,元々,過去の延長線上から離れて思考を行うものですから,論理的な根拠に乏しくなりがちです。現状を打破したいと思っていても,論理的な思考を捨てられなければ,プロアクティブに思考することは難しいと言えます。さらに,日常的な経営思考においては,過去の経験を重視したリアクティブな思考が効性えあるといえます。もう一つ,プロアクティブ(先読み)思考は単なる思いつきではなく,予測できない事態の体系的な予測を行うものであるため,思考作業に膨大な時間が必要となる点にも注意が必要です。

必要要件

プロアクティブ(先読み)思考は,探索,分析,意志決定の過程で,それぞれ,メタシステムの構造化,メカニカルな分析,環境適応型の意志決定を必要要件とします。

メタシステムの構造化

プロアクティブに思考するためには,自分が普段用いている思考のシステムの外側を検討する必要があります。システムの外側を含めて,これから経営を行っていく際の基本となる新しいシステムを認識する必要があります。経営思考メタモデルでは,こうした新しいより広い視点に立ったシステムの認識をメタシステムの構造化と呼ぶことにします。

 

機械的な分析

我々は,因果関係による思考に親しんでいるため,必要な際にも,因果関係による思考を断ち切ることがなかなかできません。経営思考メタモデルでは,因果関係による分析の代替として,「機械的な分析」を提案いたします。

機械的な分析のもっとも著名な例は,アレックス・オズボーン博士の発想法に関する研究です。オズボーン氏は発想を促す思考として,変形してみる,取り除いてみる,加えてみる,重ね合わせてみる,並べなおしてみる,逆さまにしてみるなどの形状から見た組み合わせの変更を推薦しています。

また,創造的教育について研究されてきたエドワード・デ・ボーノ博士はラテラル(水平)思考という概念で発想法を説明しています。

これらは,原因から結果が生まれるという前提にたった「直線的な」因果関係思考へのアンチテーゼと解釈されています。機械的な思考は両博士の提案と同じ主旨をもっています。機械的な分析とは,一番最初の思いつきに走ってしまわないで,考えられる選択肢をいろいろ掘り起こしてみようという思考です。

さらに,経営学で扱われる領域として,計量経済分析,損益分岐点分析,割引現在価値分析,また,統計的テストモデル等が機械的な分析を行っていると考えられます。損益分岐点のシミュレーションにおいては,様々な,固定費,変動費の組み合わせを行い,変動費が売り上げで回収できるかどうかという機械的な判断基準で,選択肢を評価していきます。また,割引現在価値分析でも,金利やキャッシュフローのさまざま組み合わせを一定の機械的な現在価値算出方式で評価します。このような機械的な思考によって,できる限りたくさんの選択肢を機械的に作り出す分析を経営思考メタモデルでは機械的分析ととらえています。

環境適応型意志決定

不確実な将来を考えるとき,環境適応型の意志決定は大変有効です。環境適応型の意志決定からは複数のシナリオが生成され,できうる限り,事態の変化をあらかじめ予測しておくようつとめます。ゲーム理論は環境適応型意志決定の典型といえます。

プロアクティブ(先読み)思考についてのそのほかの考慮すべき点

ヴィジョン

ビジョンを思考するということは,非常に抽象的なレベルでの思考です。ヴィジョンを持つための探索もあれば,分析,意志決定もあります。さらに,ヴィジョンはプロアクティブ(先読み)思考だけでなくリアクティブ(事態対応型)思考においても必要なものです。

ヴィジョンが重要なのは,ヴィジョンが,高潔で,チャレンジングで,英雄指向で,他利的な発想に満ちているからではないでしょうか。こうした精神性が組織の構成員のマインドを鼓舞するのだと思われます。こうした点は思考したことを実現に結びつけていく際に大変重要になります。こうのようにヴィジョンは思考の実践に際して,より重要な概念であると考えられます。ヴィジョンについての研究は,思考の実践過程の研究に含まれるべきものと考えられますので,本論文の範囲から除外してあります。

直感

直感にもとづいた思考は,しばしば,将来を見渡した思考と誤解されます。直感は,過去の経験をもとに,論理を飛び越えて,結論が見えてくる思考です。直感は時間のかかる分析を省略できますが,プロアクティブ(先読み)思考ではなく,経験にもとずくリアクティブ思考と言えます。

タイム・ベイスド競争

プロアクティブ(先読み)思考自体は,大変長い時間を要する思考パターンです。しかし,いったん,プロアクティブ(先読み)思考を終えれば,複数のシナリオが用意され,事態の変化に迅速に対応することができます。プロアクティブ(先読み)思考は思考を実践する際にアジャイルでありうる思考と言えます。

プロアクティブ(先読み)思考の適用事例

実際には,プロアクティブ(先読み)思考を使うケースは希であるにもかかわらず,プロアクティブ(先読み)思考をめざした研究は非常に多くあります。

ポーターの競争優位分析

ポーターの手法は典型的なプロアクティブ(先読み)思考です。しかし,ポーターの体型だったコンセプトは多くの場合,分断され,個別のワークシートのように適用されています。特に,ポーターのシナリオ分析は彼の他の分析手法に比べ著しく知名度が低く,あまり用いられていません。シナリオ分析を含めて彼の手法を体系的に適用した際にのみ,彼の手法はプロアクティブ(先読み)思考として強みを発揮すると言えます。

センゲのシステム思考手法

センゲはシステムに内在する崩壊因子として「エスカレーション」と「ディレイ」の概念を提示しています。この2つの概念はシステム崩壊に対する警告の手法として有効です。しかし,センゲは崩壊するシステムをいかに立て直すかについて言及していません。また,センゲは,機械的な分析や環境適応型の意志決定について言及していません。

また,センゲは「クリエイティヴ・テンション」として,伝統的な問題解決手法のコンセプトをプロアクティブ(先読み)思考に適応しています。センゲは「ヴィジョン−現実=クリエイティヴ・テンション」として,伝統的な「理想−現実=問題」という問題解決手法の方程式をよりプロアクティブに発展させています。

ハメルの「戦略は革命」の概念

ハメルは,蓄積されてきた経験を打ち破ることが戦略立案の要だと主張しています。ハメルはメタファーとして革命を用いています。ハメルは,プロアクティブ(先読み)思考が重要であることを強調していますが、具体的な方法論については言及していません。

 

リアクティブ(事態対応型)思考

強みと弱み

強み

  • リアクティブ(事態対応型)思考は広く日常の経営思考に利用できる。
  • リアクティブ(事態対応型)思考には論理的説得力がある。
  • リアクティブ(事態対応型)思考は改善指向と親和性が高い。
  • リアクティブ(事態対応型)思考は効率的である。

弱み

  • リアクティブ(事態対応型)思考は大胆な発想には向かない。
  • リアクティブ(事態対応型)思考は経営環境が変化にさらされている時は有効でない。

必要要件

リアクティブ(事態対応型)思考は,システム化,因果関係分析,最適探索型意志決定を必要要件とします。

システム化

因果関係を明らかにするためには,システムを把握する必要があります。全体の構造と個々の機能のつながりを明らかにすることがリアクティブ(事態対応型)思考の最初の必要要件です。

因果関係分析

我々は,教育においても,一般的な日常生活においても,因果関係で思考することに慣れ親しんでいます。因果関係による理解は,他人と共有しやすく,現代社会の共通言語の一つとも言えます。

我々は,過去の直接の経験や,読書,他人からの伝聞等の間接の経験から価値観を築き,その価値観によって因果関係を決定しています。このため,因果関係思考は過去の経験が適用できる場合には大変有効ですが,環境が変化している際には逆に,間違った対応を導きがちになります。

最適探索型意志決定

経験にもとづいて原因を解明できる際は,最適探索型の意志決定が大変有効です。戦力を集中して原因を効果的に取り除くことができるからです。

リアクティブ(事態対応型)思考の適用事例

継続的改善手法

改善型の手法はリアクティブ思考を用いる代表例です。将来における改善を意図していても,改善は現在のシステムから問題の原因を取り除くことをめざしますので,プロアクティブ(先読み)思考とは違った思考を用います。

ケプナー・トリゴーの合理的思考法

ケプナー氏とトリゴー氏は,合理的な問題解決手法の重要なステップとして,複数の選択肢を用意することを重視しています。しかし,彼らは,用意したいくつかの解決策の選択肢から最適な選択肢を選ぶことを推奨しています。さらに,選んだ選択肢がうまく実現できない際の対応策を事前に検討しておくことを推奨しています。彼らの手法は,プロアクティブ思考とリアクティブ(事態対応型)思考を統合しようとしたものだととられることができます。彼らの手法はプロアクティブ(先読み)思考とリアクティブ(事態対応型)思考の両方を考慮しているため,原因の追究のあと,解決策を発想する際に思考プロセスに大きな転換があります。この転換はしばしば両氏の手法を適用する際に障害を招きます。しかし,彼らの手法に精通することで,環境が変化していないときには原因の追究に重きを置き,環境が変化しているときには原因の追究にエネルギーを使わず解決策の発想に重きを置くといった,融通性の高い経営思考を行うことができます。

 

パッシブ(受け身型)思考

強みと弱み

強み

  • パッシブ(受け身型)思考は状況認識に長けている。

弱み

  • パッシブ(受け身型)思考は将来の可能性も経験にもとずく原因も発見できない。
  • パッシブ(受け身型)思考はしばしば,経営分析手法を正しく適応したものだと誤解される。

必要要件

パッシブ(受け身型)思考は,なにがしかの整理の枠組みを作ること,整理枠内に情報を整理すること,直感的に意志決定を行うこと,の3つを必要要件とします。直感的な意志決定は,必要要件というより,機械的な分析も,原因の追究もしないために,直感による意志決定よりほかに方法がないという排他的な用件といえます。

枠組みの作成

枠組みは,対象とする情報を漏れなく重複なく整理できることが望ましいと言えます。

枠組みへの情報の整理

この過程では、前述の探索過程で設定した枠組みに実際に情報を整理していきます。情報を網羅的かつ重複なく整理できれば,パッシブ(受け身型)思考における分析は完了です。

情報の整理の過程では,バーバーラ,ミントが提唱する「ピラミッド・プリンシプル」と「MECE・プリンシプル」が大変有効です。多くの場合,同じ情報は抽象的にも具体的にも表現されます。また,その抽象的な情報と具体的な情報はごちゃ混ぜになっているのが一般的です。そうした際,抽象的な情報をピラミッドの上位層に,具体的な情報をピラミッドの下位層に整理することで整理の効率を向上させることができます。これが,ピラミッド・プリンシプルです。また,MECEとは"Mutually Exclusive & Collectively Exhausted"の頭文字をとったものです。意味は,「お互いに重なり合わず,すべてを集めると全部を言い尽くしている」というものになります。ピラミッドの各層でMECEが実現されていれば情報の整理は理想的といえます。

直感的意志決定

パッシブ(受け身型)思考は機械的な選択肢の発想も,原因の追究も行いませんので,直感に頼らざるをえなくなります。パッシブ(受け身型)思考は,経営的な判断には向かず,純粋学問的な研究等に利用すべき思考パターンといえます。

パッシブ(受け身型)思考の適用事例

経営的観点から見たとき,パッシブ(受け身型)思考の事例は,もともと,プロアクティブ(先読み)思考かリアクティブ(事態対応型)思考を想定していた思考パターンが,単に情報の整理に終わってしまった場合がほとんどとなります。また,財務諸表を例にすると,財務諸表自体はパッシブ(受け身型)思考の産物であり,財務分析はプロアクティブ(先読み)思考やリアクティブ(事態対応型)思考の適応事例であると言えます。

最後に

以上のように,経営思考メタモデルは経営思考の典型的なパターンを論理的かつ網羅的に整理したものです。経営思考メタモデルは,新しい経営概念が登場した際には,その概念が何を意図しているのかを把握するのに役立ち,実際に,経営的な思考が求められる際には状況に応じて,適切な思考パターンを選択するのに役立つと考えられます