EVA

柴田英寿 1999.10.09
経営の理論と実践
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 キャッシュフローと並んで、経営評価指標として注目されているのがEVA(Economic Value Added)です。もともとの意味は「経済的付加価値」ですが、米国のスターン・スチュワート社が商標として登録しています。スターン・スチュワート社ではEVAに独自の定義を与えており、EVA(R)(R: Trademark Registered)で表記して区別した方がよいようです。

プレゼンテーション資料:EVA.exe(65kB)

 EVAを本来の意味で考えれば、売上からコストを引いた利益に相当するものになります。この利益をどのように定義するかによってEVAの大きさが変わってきます。

 最も一般的なものは、会計原則にのっとった「損益計算書上の利益」です。損益計算書上の利益は、売上から費用を差し引いた額から税金を計算し、差し引いています。また、費用の中には、借入金に対する支払利息も含まれています。

 EVA(R)の第一のポイントは、「経済的付加価値は、税金と利息の他に、株主に対する配当も差し引かなくてはならない」とする点です。

 損益計算書上の利益は、税金や借入金に対する利息については控除していますが、株主に対する配当金は差し引いていません。この関係を式で書くと以下のようになります。

EVA=損益計算書上の利益―配当、または、

EVA=(税引き後、利息支払い前利益)―(利息+配当)

同じことを、英語の記号で書くと、

EVA=NOPAT−C*WACC
    NOPAT:Net Operation Profit after Tax
    C :Invested Capital
    WACC :Waited Average Cost of Capital

 スターン・スチュワートが主張しているのは、投資の判断基準を利息や配当などの投資された資金が期待する利回りを上回るかどかに設定しようということです。

 そうしないと、業績のよい事業を任されている経営者は、利息や配当の期待する利回りを上回っている投資案件でも、現在の利益水準を落とす場合、投資しなくなるし、反対に、業績が悪い場合、利息や配当が期待する利回りよりも低い投資案件にも業績を向上できるならば投資してしまうことになってしまうということを主張しています。

 投資判断の基準を業績を向上できるかどうかではなく、投資家の期待利回りを上回るかどうかにするという考え方です。

 さらに、スターン・スチュワート社は、いくつかの点で、一般会計原則から導き出される利益の修正を提言しています。

 例えば、研究開発費は費用計上せず、資産として計上して何年かかけて償却すべきとしています。この論点は、スターン・スチューワートだけでなく、会計学会でも長く議論されている点です。実際、ソフトウエア開発の投資は、資産と計上して、何年かに分けて償却することを主張しています。論拠は、研究開発の効果は、長年に渡って出てくるものだからというものです。効果が続く年限で少しづつ償却すべきという主張です。

 また、各種の引き当てや準備金は、実際に支出されるまでは、投資のために活用すべき資金源であるので、費用計上から除くべきともしています。

 リストラ費用も、費用ではなく、投資と考えて資産とするべきとしています。リストラをすることで、利益を増やせると判断したからリストラするわけですから、それにかかる費用は投資であるという見方です。

 企業を買収した際に生じる、「買収金額」と「買収された企業の資産総額−借入金」の差額(=のれん代、営業権、Good Will)について、会計原則は、毎年償却を進めて一定の年限でゼロにすることとしています。これに対して、スターン・スチュワートは営業権はブランド価値などとして通常、永続するものなので、償却する必要はないと主張しています。償却しない分、費用が減り利益が増えることになります。

EVA(R)では減価償却費については、足し戻しを行いません(キャッシュフローの算出においては行う)。これは、EVA(R)が利益を長期的視点で把握しようとしていることを表しています。減価償却費は、投資された時点で支出された現金を、その後、何年かに分割して費用計上するものです。

 キャシュフローが、現金残高の変化を評価指標にして、その年の現金資産の創造力を計っているのに対してEVA(R)は利益の長期的創造力を計っていると考えられます。

 一連のEVAの著作では、EVAで算出した企業価値とキャッシュフローで算出した企業価値は全く同額になると主張しています。確かに、今後、永久に企業が価値を生み出すものと仮定して算出する企業価値の算定においては、投資の償却費用をいつの時点で費用計上するかという違いしかない両者は全く同一になるといえます。逆に言えば、単年度でみれば、EVAとキャッシュフローは同額にはならないということです。

 この、単年度は同一にならないという視点の方がより重要です。 キャッシュフローは単年度の現金創造力に特化してしまい、長期的な視点での投資評価が行いにくのです。これに対して、EVAは会計原則で費用に含める支出を投資と考えて、複数年で償却するなど長期的な投資評価の視点を重視しているといえます。

 会計原則にのっとった利益も、キャッシュフローもEVA(R)も経済的付加価値という意味ではEVAに含まれると考えてよいものです。それぞれに、考え方に違いがあり、評価の視点が違うわけです。

 キャッシュフローは、単年度の現金獲得高を計るものであり、EVAは長期的な投資の有効性を計るものであるといえるでしょう。会計原則上の利益は、その中間にあるものと考えられます。

 また、スターン・スチュワート社は、EVA(R)の採用に当たって、ボーナスなどのインセンティブ(動機付け)と明確にリンクしていなくては、なんの意味もないと明言しています。卓抜した視点といえるでしょう。

 EVAの魅力は、投資という視点を首尾一貫して、支出が投資なのか費用なのかを問い直すところにあるといえるでしょう。

 

以下参考文献およびホームページ

EVA創造の経営 G.ベネット・スチュワート  日興リサーチセンター、河田剛、長掛良介、須藤亜里【訳】東洋経済新報社 1998.10.29 \3,800

 スターン・スチュワート社のベネット・スチュワートがEVAを解説してる著書です。EVAだけというよりも、株式の時価総額で企業価値を評価する際の広範な研究ととらえた方がよいようです。

富を創造するEVA経営 アル・アーバー河田剛【訳】東洋経済新報社 1999.02.04 \2,200

 上掲の「EVA創造の経営」が大著であり、計算式まで正確に掲載しているのに大して、こちらは、読み物の体裁になっており、読みやすくなっております。アル・アーバー氏もスターン・スチュワート社のコンサルタントです。

EVAの基礎 J.L.グラント 兼広崇明【訳】東洋経済新報社 98.10.22 \1,700

グラントはビジネススクールの教授で、本書は、前掲2書に比べて理論的に書かれています。ただし、「基礎」とありますように、比較的平易にまとめられています。

スターン・スチュワート社のホームページです

VBMをめぐる諸問題 Part2
-EVAとMVA-

ICRの経営研究部 松村 広志さんのページです。EVAの基本的な考え方についてのプレゼンテーション資料を参照できます。

EVA(経済付加価値)とMVA(市場付加価値)

中小企業診断士 篠田 勝彦さんのページです。EVAについてコンパクトにまとめられています。