シミュレーション0

キャッシュフローを改善するには0

経営効果をはかる尺度としてキャッシュフローを採用した場合について以下に説明します。

キャッシュフローを改善するには、主に、

  1. 売上を伸ばす
  2. 売上原価を下げる
  3. 販売および一般管理費を減らす
  4. 棚卸し資産を減らす
  5. 売掛を減らす
  6. 買掛を増やす

等の方策があります。シミュレーションは、ある施策を実行することで、上の項目がどの程度変化するかを数式化すれば可能になります。ただし、「販売および一般管理費」を減らすという方策は、「売上高を伸ばす」という方策に強く相関しています。上の方策は互いに関連していますので、シミュレーションは単純にはいきません。

上の項目をひとつづつ見ていきましょう。

売上を伸ばす0

売上の伸びは、様々な要素が影響するので簡単にはシミュレーションできません。販促を強化することで売上が伸びる場合もあれば、営業マンのサービスに対する好印象が売り上げ増を生むこともあります。価格を下げたことによる売上増もあれば、品質や性能の向上による売り上げ増もあります。小売業のような販売機会が大変多い業態では、過去の実績から、どの要素が売上の伸びにどの程度影響するか数式化することができます個別販売(個別商談型)の場合は、統計的に信頼できるデータはなかなか取れないようです。

売上原価を下げる0

売上原価を下げれば、確かに利益が増え、キャッシュフローも増加するはずです。しかし、売上原価の中には、減価償却費や全部原価計算による製造原価が含まれています。減価償却費はすでに支出してしまったキャッシュフローを損益計算上年々に分割して支出しているように見せかけているものですから、実際のキャッシュの動きと連動しません。また、全部原価計算は製造業で広く採用されている方式で、販売以上に製造した分を在庫に積み上げると、単位あたりの製造原価が小さくなり(固定費の配賦分が小さくなる)、販売分に比例した製造原価も小さくなってしまうという仕組みを持っています。

こうした性質があるため、売上原価の低減はそれ自体ではキャッシュフローの増加を意味しません。エリー・ゴールドラッド氏が提唱するように、売上原価ではなく、売上から材料費だけを引いた額を評価指標にする方が望ましいようです。

つまり、材料費の低減については、キャッシュフローの改善と相関しているとして、シミュレーションが可能というわけです

販売および一般管理費を減らす0

「売上高を伸ばす」のところで述べたように、販売費用を減らすことは売上を減らすことに高い相関を持つため、キャッシュフローの改善について単純な比例関係を設定することは出来ません。

一般管理費についても、経費の削減が、企業の体力や将来性を損なってしまう場合が多く単純にキャッシュフローの改善とだけ結びつけて考えるのは誤りといえます。

販売および一般管理費の項は、現状を維持することを仮定してシミュレーションしてはどうでしょうか?その結果を受けて、販売管理費の増減の影響度等を第二段階目のシミュレーションとするのがよいと思います。

棚卸し資産を減らす0

棚卸資産は経営効果のシュミレーションにおいて大変重要な役割を果たします。棚卸し資産は、貸借対照表上では

  • 商品・製品
  • 半製品・仕掛り
  • 原料・貯蔵品

に分類されます。加えて、それぞれが発生した原因から次のようにも分類できます。

 

発生した原因

その後に起こること

早く作りすぎた
早く仕入れ過ぎた

必要がないのに作った
必要がないのに仕入れた

キャンペーンをやって無理矢理売る

どうしようもないので償却する

間に合わずに
販売機会を失った

遅れて納入する

キャンセルされる

 

このうちAとBは棚卸資産になりますが、Cはなりません。Cはいわば「負の棚卸資産」です。経営的効果を考える場合、ただ単に貸借対照表上の棚卸資産であるAとBを減らすだけでなく、Cを増やさずにAとBを減らさなくてはなりません。また、Cは売上高を変動させる要素と考えられます。そこで、シミュレーションを単純化するためにCは売上高の変動をシミュレーションする数式の中に組み込んでしまい、AとBだけを棚卸資産の増減による経営効果のシミュレーションに使うのはどうでしょうか?

売掛を減らす0

売掛を減らすということは、資金回収を強化するということで、特別なコストをかけずに行えるならば、経営上大変意味のあることです。しかし、売上が減ったことで売掛が減ったのでは意味がありません。売掛回収自体の効率が変化しないのであれば、売掛回収は売上の増減の従属変数と仮定してシミュレーションできると考えます。

買掛を増やす0

買掛を増やすことでも一時的にキャッシュフローを改善することはできます。しかし、積み上がった買掛はいつか償却しなくてはならないので、目指すべきキャッシュフロー改善の方策とはいえないと考えます。

以上をまとめると

 

売上

過去の実績から売上高と売上高に影響する要素の相関を仮定してシミュレーションする

売上原価

材料費についてはキャシュフロー改善度合いのシミュレーションに向く
労務費等は固定的であると仮定する。

販・管費

現状水準に仮定するのがよい

売掛

売上に従属する変数とするのがよい

棚卸資産

在庫切れによる販売機会の損失は売上高のシミュレーションに組み込んで、貸借対照表上の棚卸資産の増減によるキャッシュフローの改善をシミュレーションする

買掛

キャッシュフロー改善との本質的相関性が薄い

 

売上高については、過去実績等から Multi-Regression 等でシミュレーションし、材料費および棚卸資産についても経営効果をシミュレーションできる。

シミュレーションとIT Strategiesの関係

売上を伸ばしたい、材料費を減らしたい、棚卸資産を減らしたいというとき、どの程度伸ばしたいかのか、減らしたいのかによって取り組むべきIT Strategiesの範囲や改革の度合いが変わってきます。実際の効果については、新しいITシステムができあがるまで測定出来ません。しかし、より大きな効果を望めば、ITプロジェクト自体がうまくいかない可能性も高くなる点は考慮しておくべきです。

IT Strategiesにおけるシミュレーションとは以下のようになります。

  • 売上の増加、材料費の低減、棚卸資産の低減等が経営的にどの程度の効果があるのかを明らかにする。(当然必要となるコストを差し引いた上での経営効果を明らかにする)
  • 目指す効果を実現するためにはどの程度の改革が必要になり、その改革の成功確率はどの程度であるかを明らかにする。
  • 期待効果に成功確率を掛け合わせて、正味の期待効果を算定する。
  • いくつかのIT Strategiesについて正味の期待効果を算定し、最も期待効果の大きいものに着手する。

具体的には以下のようになります。

売上高に対して材料費が60%、棚卸資産が10%と仮定しています。実際には一つのProjectが売上伸長にも、材料費削減にも、棚卸資産削減にも寄与しますが、下では単純にひとつのProjectは1つの効果しかないものと考えています。

 

 

期待効果

費用

成功確率

正味効果

ProjectA

売上伸長
3%

対売上
0.5%

20%

対売上
0.50%

ProjectB

材料費低減
8%
=
対売上2.4%

対売上
1.0%

50%

対売上
0.60%

ProjectC

棚卸資産低減
20%
=
対売上2%

対売上
1.0%

40%

対売上
0.40%

 

上の比較では、期待効果は低いですが成功確率の高いプロジェクトBがもっとも大きな正味効果を持っているといえます。

こうした算定で簡単に選択肢を決めるというよりは、こうした算定を繰り返すことで仮定に間違いがないかをチェックしていくという方がより正確です。たとえば、上の算定でプロジェクトBが最も正味効果が大きいとでたとき、材料費の低減効果や費用、成功確率が他の選択肢と比べて甘い設定でないか確認することになります。そうした検討を繰り返すことで正味効果のもつ様々な側面が次第に明らかになってきます。

棚卸資産削減のシミュレーション0

売上の伸長や材料費の削減が比較的単純にシミュレートできるのに比べ、棚卸資産の削減は簡単にはシミュレートできません。実際には、改善の難しい製造工程や配送工程の制約が棚卸資産の発生原因の大部分を占めていることが多いので、シミュレーションを行うにしても期待効果はあまり多くならない場合が多くなります。

一つの有効なシミュレーションの考え方は、過去の実績から見て、需要予測がどの程度在庫の増減に影響するかを統計的に計測するというものがあります。1ヶ月前、また1週間前に立てた計画が実際にはどの程度変更になったかと棚卸資産の発生の相関性を統計的に処理することで、工程や配送ルートのメカニズムを与件とした場合の棚卸資産のシミュレーションを行うことが出来ます。